Interview

細淵 太麻紀氏

大塚:細淵 太麻紀さんにお話をお伺いします。よろしくお願いいたします。

大塚:現在の職種、業界、仕事内容を教えてください。
細淵:美術、特に現代美術にかかわる仕事をしています。自分で作品をつくること、作品をつくる人を応援すること、作品を見る人にかかわること、などです。

大塚:ここまでのキャリアパスを教えてください。
細淵:美術大学でグラフィックデザインを専攻、おもに写真表現を勉強していました。卒業後、友人に勧められて参加した美術館の講座や、それがきっかけでスタッフとしてお手伝いした現代美術の展覧会が思わぬきっかけとなり、PHスタジオという美術と建築の分野で活動するチームにお声がけいただき、メンバーとなりました。「都市に棲む」をテーマに、国内外のギャラリーや美術館、野外での展覧会への参加を通し、プランから実際の作品の制作まで、また建築設計のアシスタントなどを実地で学びました。その後、横浜市が2つの元銀行の歴史的建造物を文化活動に活用する実験事業の運営者コンペに通ったことをきっかけに、ものづくり中心の活動から、ディレクションやコーディネートと呼ばれる、ものをつくる人を応援する仕事が中心となりました。それが大塚さんとも出会うきっかけとなったBankART1929です。このような種類の仕事も、どこかで学んだわけではないので実地で学んでいきました。展覧会の制作、広報、オファーされた企画のコーディネート、講座などの企画運営、ブックショップの運営、本の編集、図面やPCでの写真加工、DTPなどの専門的なことから、行政への提出書類の作成や助成金申請、組織全体の経理など事務総務的なことまで、様々なことをやりました。今は少し休憩して、自分の活動を徐々に増やしていこうとしていこうというところです。
なぜ現代美術か、というと、自分が苦しい時に美術に救われてきたからです。資本経済の力とは別な、人間が本来持っている価値観や倫理観、美術の力を信じているからです。

大塚:力強いですね。お気持ちが伝わってきます。少し戻って学生時代の話を聞かせて下さい。学生時代の時、頑張っていたこと熱中していたことなどありますか。
細淵:憧れの大学生になってみたら、期待が大きすぎたのか、なにか思っていたのと違うな、というのが最初の印象でした。そこで、大学とは何かを教えてもらう場というよりも、4年間という時間をもらっているのだ、と考え、友人との時間や、好きなことや気になることを突き詰めることに時間を割くようにしました。大学の課題は大変でしたが、本を読んだり映画を見たり、友達と議論をしたりしていました。
作品制作の真っ只中に自分の不注意でバイクで転倒事故をして入院するなど、人生の中で暗い時期でもありました。自分の作品をつくりたいと思って美術大学に入ったものの、いろいろ考えすぎた挙句に何もつくれなくなってしまい、写真を撮ることと文章を書くことくらいしかできなくなったこともあり、学外での写真ワークショップに参加しました。そこでは石内都さんや森山大道さんなど一流の写真家の方々に教えを受けたり、そこで出会った仲間と夜な夜な議論して自分たちの展覧会を企画するなど、視野を広げることができました。当時読んだ本や見た映画、考えていたことや話していたことは、案外今でも変わらずに問い続けていることだったりします。

大塚:学生時代の就活の印象は、いかがですか?
細淵:就職率の高い学科だったので、みんなが当然のように「◎通と■□堂どっち受ける?」と問うてくるのを不思議な気持ちで聞き流していました。その雰囲気に流されて、1社だけ面接に行ったのですが、やっぱりなんか違うなと思いなおし、以降、就職活動するのを辞めました。昔から「何になりたいか」という職業への憧れよりも、「どんな人になりたいか」ということの方が自分にはしっくりきていました。あるいは性別や肩書きなど、何かに分類され、勝手に固定化されるのが嫌だったのかもしれません。

大塚:就職活動する学生へ一言お願いします。
細淵:自分を信じること、あるいは信じられる自分でいようとすること。

大塚:ご自身では、どのような人と一緒に働きたいと思いますか?
細淵:会話ができる人。他人の話をきちんと聞くことができ、的確なレスポンスができる人。お互いが必ずしも同じ考えでなくても、それぞれの立場を尊重して、自立的な関係で会話ができる人。

大塚:仕事で楽しいことは何でしょうか。
細淵:思い通りにことが進む時と、思いがけない方向にことが進む時です。

大塚:逆に仕事で大変なことは何でしょうか?
細淵:自分ひとりではどうにもできないようなものを、それでもひっくりかえさなければならないとき。(ひっくりかえせないことも多いですが)どんなときでも前向きなモチベーションを保つこと。

大塚:公私共にいろいろな方々とコミュニケーションを取っていると思います。コミュニケーションで心がけていることを教えてください。
細淵:真摯であることと、自分をしっかりと持つこと。

大塚:大事ですね。では、人に伝える時に心がけていることを教えて頂けますか。
細淵:答えをいうのではなく、答えを相手に考えてもらえるような問いかけをすること。

大塚:仕事などモチベーションを保つためにご自身で工夫されていることを教えて頂けますか。
細淵:自分の深みにはまらないこと。インプットとアウトプットのバランスをとること。俯瞰してものごとをみるようにすること。本を読んだり、他人と話したりして、別な視点を得ようとすること。

大塚:ロールモデルがいたら教えてください。
細淵:いろいろな人のいろいろな側面がいろいろなことを教えてくれています。仕事で一緒になった人でも、いい仕事をしている人は、その行動や思考や言葉から、学ぶべきものをいくらでも読み取ることができます。また、これはいただけないなということも、いい反面教師となります。

大塚:ご自身を構成するアイデンティティの要素は何でしょうか?
細淵:これまでに出会った人々や、あらゆる表現を通して伝わってきた思考や思想や想いなどです。

大塚:幸せなのはどんな時ですか?
細淵:寝ているとき。それなのに不眠症…(汗)
こと、人、場、などのかけあわせによって化学反応のようなものが起こって、ことが思いがけずに展開していったときです。

大塚:最後に今後のビジョンを教えてください。
細淵:死ぬまで生きる。

大塚:貴重なお話ありがとうございます。

お名前:細淵太麻紀(Tamaki HOSOBUCHI)
多摩美術大学でグラフィックデザインを専攻、主に写真を学んだ後、PHスタジオにて美術と建築の分野で活動。広島県のダムに沈むエリアでおこなったプロジェクト「船をつくる話」は、本田孝義監督により「船、やまにのぼる」として映画化、DVD化した。2004年に横浜市の歴史的建造物を文化活動に活用するBankART1929の立ち上げに関わり、以降企画運営全般にかかわる。最近はさらに個人の表現活動も並行して行う。2017年から写真と文章を主軸とした出版プロジェクト「現像」を共同主宰。

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